インタビュー

〈2020.5.18〉ウエブ・ツー・プリントで実現する最高の家族的企業。

▲ PHASE:3のトロイ・マクギニス(Troy McGinnis)社長。



PHASE:3は米国ダラスにある広告と大判グラフィックスの総合企業。広告代理店機能があり、広告プラン、
デザイン、出力、施工まで一貫して行える。さらにWeb to Printを実現し、クライアントがデザインを了承し、専用サイト上でクリックすれば、自動的に同社のプリンターが動き出すシステムも構築している。今回はTroy McGinnis(トロイ・マクギニス)社長に、会社の成り立ちから現状、今後の展望について訊いた。


会社の成り立ちと今


 当社は1988年、写植の会社としてスタートしました。その後、事業は順調に拡大し、最大70台のイメージセッター(写植用のマシン)を持っていましたが、製版のデジタル化に伴い、徐々に印刷写植の需要はなくなり、業容の転換を迫られました。そこで私は、フィルムという中間生産物ではなく、最終成果物を作ることが可能なプリントの会社に業態を変えていきました。
 さらに現在は、社内に3つの代理店を持っていまして、そこがブランドオーナーに直接働きかけ、仕事を受注し直需率は100%です。直接受注により、クライアントとの密な対話ができ、ただ出力するのではなく、アイデアを出し、顧客のブランドエンゲージメントを高める広告やディスプレイを提案できています。
 広告代理店も兼ねているのは、出力のみだと「値段」と「納期」だけの競争になるので、それが嫌なのです。クライアントと哲学を共有すれば、インパクトのあるブランディングが可能になり、長いお付き合いができます。実際、当社は10年以上の付き合いがあるクライアントが多く、互いに利点をより深く理解し、より良いブランディングの提案につながっています。
 私がこの仕組みを考えたのは、当時非常に勢いのあったネット印刷会社のビスタプリントが「大量受注、低価格、短納期」を強みにしていたことがあります。大手と同じことをやれば、確実に小さな会社は負けます。「付加価値を持った広告提案をオーダーメイドでする」、これが弱者の戦略なのです。



▲ 立体物から布物(巨大なパンツ)まで、自社で製作できる。




製作物はどのようなもの?


 当社のエントランスには、クライアントに何ができるかを説明できるように、多くの製作物を設置しています。フォルクスワーゲンのワゴン後部はテールランプも点灯しますが、本物ではなく、完全に当社で作ったディスプレイです。巨大な男性用のトランクスも、布物の出力と縫製までできることを示すために作成しました。ミーティングルームのテーブルやオフィスの仕切りも自家製。代理店機能が強い上に、「必要なもので、作れないものはない」というほど製作部隊も強力なのがウチの自慢です。
 「1社ですべてを賄う」という方針で、「クライアントのためになり、他の事業としっかりつながれば」という条件付きで、必要な機材はすべて購入し、自分たちにとって必要な会社があれば買収もしています。



プリンターのラインアップは?

 マシンはefiが中心で、5m機だけで4台あります。「VUTEk GS5000r」はロールtoロールのUV硬化型5m機。出力物は、品質が高くハイブランドの屋外広告での採用事例が多いです。
 「HS100PRO」は、3.2m幅、リジット(フラットベッド)タイプのUVプリンターで、ボードを中心に作業をしており、「早くて、きれい」なのが特長。前後工程がシンプルで、生産性は、1時間あたり最大100枚、POPモード(600dpiバイナリ印刷モード)では最大70枚のボードを処理できます。
 「FubriUV340」は、昇華転写タイプの3.4m機。従来は他社製品5台で出力していた仕事を1台で実行できるほどの生産性があります。高速機を導入するのは、省力化の意味があります。5台に2、3人のオペレーターを付けるより、1台を1人で管理した方が、人件費が減るのは当然ですよね。
 昇華転写で布へプリントするソフトサイネージは、大手自動車メーカーやベッドメーカーなど、要求の厳しいハイブランドの広告に採用されることが増えています。特にベッドメーカーでは、説明用ディスプレイとして布のベッドカバーをかぶせることが多く、これが高級感のある高付加価値広告として認知されています。ソフトサイネージは米国でここ3年急増し、特にバックリット方式の広告は、コスメや宝石など品質に厳しいスーパーブランドが布へ素材をシフトしています。このため、「FubriUV340」は3交代・24時間・週7日フル稼働の状態です。



▲ efiの5m機が4台並ぶ。


▲ リジットタイプの「HS100PRO」。



Web to Printを実現している?


 当社全体も3交代制で24時間操業のシフト制をとり、全米からの注文を受け、広告やディスプレイの製作をしています。生産は「ウエブ・ツー・プリント」を実現しています。注文の4割がWebからで、そのまま人の手を介さず、最適な出力装置に仕事が分配されるシステムを構築しました。Web受注からプリント終了まではわずか3 ~ 4時間と納期に関しても非常に短くしています。
 クライアントには、それぞれにカスタマイズした専用発注ページを用意しており、簡単に専門的な注文を行えるのです。このおかげで、広告代理店部門の提案をクライアントが承認すれば、すぐに広告が必要な場所に出力・配送されるようになりました。
 カッティングプロッターでは「MCTVERSA TECH2」などを設備しており、一切、手作業でのカッティングはしていません。生産性の向上はもちろんですが、事故が起こった場合、補償の問題が出ることもその理由です。米国は訴訟が多いので、社員の安全には非常に気を使っています。
 このほか、後工程では、縫製用にJUKIのミシンを複数台用意し、木組みのためのスタジオに大きな面積を割くなど、出力後のボトルネックを極力減らす努力をしています。



さらに大きく、さらに強く

 当社は、大手のクライアントを多数持っており、1998年の創業から規模も拡大してきました。現在、売上は約48億円ですが、中期的には200億円まで売り上げを伸ばしたいと考えています。ただ、急成長した場合に、会社を買収されてしまう危険性があります。会社の買収自体は米国では当たり前のことですが、私は仕事と社員を愛しており、彼らを人に託したくありません。
 米国では珍しいのかもしれませんが、社員を家族と考えており、彼らの成長を見ることが私の楽しみでもあります。ポリシーは「成長の機会を与え、成長後はふさわしいポストとそのための権利を与える」です。社員もこの施策をよく理解し、会社を愛してくれており、キャリア15年以上が多いのも当社の特徴です。
 私は社員とともにお金のためだけではなく、楽しく働ける文化を醸成していきたいと考えています。

 

▲ 高級ブランドの広告に使用されている昇華転写プリンター。


▲ 
ボトルネックになりやすい後工程には広いスペースを割いている。



 

 

 

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